ランブリングアレー

 2勝→3勝クラスと連勝のランブリングアレー(牝4=友道)が小倉記念で重賞初Vを狙う。Alleyは母ブルーミングアレー(花咲く小道)から。その母の兄である米トラヴァーズS勝ちフラワーアレイ(Flower Alley)にあやかったものだろう。Ramblingは「ぶらぶら歩く」。動詞Rambleは中世英語で「歩く」の意味があったromenの反復相(状況の繰り返しを表す)とみられ、日本語の逍遥(しょうよう、気ままに歩くこと)と似た感じ。逍も遥も「さまよい歩く」の意味で、類語が重ねられて反復の相がある熟語。ランブリングアレーはつまり「逍遥の小道」。栗東トレセン施設「逍遥馬道」の英訳としても通じるはず。

 

 

ロードゴラッソ

 興味深い組み合わせとなったエルムS。注目はロードゴラッソ(牡5=藤岡)だ。Golazoはスペイン語で、スポーツ、とりわけサッカーの用語。母がサッカーマムなので。スペイン、アルゼンチンといったスペイン語圏はいずれもサッカーが盛んなのでちょっと不思議だが、近代サッカーの祖がイングランドのためかゴールは英語からの借用語(Gol=ゴル)を使う。発音をあえてカタカナにするならゴォル。―azoは規模やサイズを拡張する語尾。つまりゴラッソは素晴らしいゴール、スーパーゴールのこと。ラテン系は少々大げさな傾向があるので、すぐSuperior Golazo――スーパースーパーゴールとか言う。

 

サムシングジャスト

 昨年10月から4戦3勝。サムシングジャスト(牝4=松田)は瞬く間に1勝クラスからオープンまで出世。

 馬名はたぶんザ・チェインスモーカーズ(米エレクトロデュオ)とコールドプレイ(英ロックバンド)がコラボして17年にリリースした「サムシング・ジャスト・ライク・ディス」由来だと思う。

 この曲名を訳すのは意外と難しい。歌詞の流れからは「僕はヒーローじゃない」「私はそばにいてくれる人でいいの」――I want something just like this(僕はそうなりたいんだ)――。この曲の日本版ミュージックビデオは小松菜奈が素晴らしいのでお勧め。曲名由来なら、ロックバンド名とかぶるクイーンSはぴったり?

 

ナランフレグ

 アイビスSDのナランフレグ(牡4=宗像)はモンゴル語の馬名。ナランは「太陽」だが、フレグはチンギスカンの孫フレグ大王ばかり出てきて、JRA公式由来「速く飛ぶ馬」の裏付けがなかなか見当たらない。調べた結果、おそらくモンゴルにおける祝福の口承詩ユルール由来かと思う。モンゴルで種馬を選定するレースが行われた際、1着馬への称号が「アジネ・フレグ」。意味は「最良の駿馬、最も速く飛ぶように走る馬」。1着馬へのユルールに「矢のように飛ぶ 駿足の種馬 深山に遊ぶ 獣王ライオンのよう 雲の向こうに飛ぶ ガルーダ(神鳥)のよう」とある。2着馬への称号「ナラン・マンダル」が「太陽の面」。

 

函館2歳Sの神馬名(かみ・ばめい)

 函館2歳Sは1988年にサザンビーナスが勝った。今年はそれ以来、32年ぶりに「神馬名」の戴冠があるかもしれない(93年マリーゴッドは神がつくが神馬名とは言えない)。ただしビーナスのような著名な神ではない。フォルセティは北欧神話「エッダ」の神話詩「グリームニルのことば」に「十番目の館はグリトニル 黄金に支えられ 屋根は銀でふかれる フォルセティが暮らし 物事をみな鎮める」とあり、失敗しない仲裁者の性格を持つ法の神。重賞取りに「失敗しないので」となるか。フォドラはケルト神話アイルランド来寇の書」で登場するバンバ、エリューとの三姉妹神で、アイルランド土着の女神。あとニシノエルサのエルサは「雪の女王」ではなくギリシャ神話の「露」の女神。

 

キタノオクトパス

 馬なのに…という馬名の極北は、馬なのにネコで枝葉を世界に広げたストームキャットだと思うが、「馬なのに馬名」のトレンドは多様。1種類の動物で個別に年間数万の名前が付き、全てが登録されて重複が少ないのはサラブレッドだけ。馬名界が広く深いゆえんだ。大井ジャパンダートダービーに出走するキタノオクトパス(牡3=高木)は馬なのにタコ。Octopusの語源はギリシャ語ΟΚΤΩΠΟΥΣで「オクト(8)+パス(足)」。あえて馬にタコと付けた理由は、北欧神話における主神オーディンの愛馬で、八脚の神獣スレイプニルにあやかったと考えよう。それにギリシャ語タコ(ΤΑΧΟ―)は「速さ」の接頭辞。

 

エネイブル、ジャパン

 新型ウイルス感染拡大の影響で、日本馬の海外出走はハードルが高い。ところが英国を本拠としてサーキットを続けるディアドラが出走するエクリプスSの馬券を買える!ありがとう、ディアドラ。ライバルの馬名を見よう。強敵はエネイブル(Enable=可能にする)。母はコンセントリック(Concentric=集中的な)で人気は彼女にコンセントリック。そしてジャパン(Japan)。母はShastyeで、これは「シャースティエ」と読みたい。普通に読めば「シャスタイ」っぽいが、Shastyeはロシア語Счастье(=幸せ)を英語に転写したと推察する。シャースティエのお兄さんサガシティは01年凱旋門賞武豊が騎乗して3着。日本とジャパンは縁がある。