サリオス

 皐月賞2着のサリオス(牡3=堀)はダービーで逆転なるか。大勝負。

 Saliosは古代ローマ時代のマルス(いくさの神)に仕えた祭司のこと。王政ローマ第2代の王ヌマ・ポンピリウスの時代に、神聖なるマルスの盾が空から降ってきた。この盾は11枚複製され、計12枚の盾を保管する祭司の集団がサリイ(一人の時がサリオス)と呼ばれた。毎年3月(マルスの月)前半にサリイの祭りが催され、サリイはローマの安全を守るため歌って踊った。サリイについては、マルクス・テレンティウス・ウァロの「ラテン語論」に記述があるが、この人、疫学の先駆け。新型ウイルスと戦う今、思いを致したい人物がサリオスから浮かび上がる。

 

デゼル

 デビュー71日、3戦目でのオークス制覇を狙うのがデゼル(牝3=友道)だ。前走スイートピーSは<飛躍>したレース。スローなのに後方から余裕を持って一気に差したのもそうだし、他馬より0秒8以上速い上がり3F32秒5という数字も強烈。<飛躍>とは飛ぶような末脚であると同時に、競馬史のページを進める画期的な内容であったことを示す。Des Ailesはフランス語で「翼」のこと。アヴォワールデゼル(avoir des ailes、翼を持つ=羽が生えたように速く走る)という表現もある。母の馬名アヴニールセルタンの意味は「確かな未来」。デゼルが翼を携えて、約束された未来にいま飛び立つ。

 

サウンドキアラ

 重賞3連勝。破竹の勢いでサウンドキアラ(牝5=安達)がヴィクトリアマイルに臨む。

 サウンドは冠名。サウンドガガ、サウンドリアーナという冠名+歌姫の命名で重賞馬が2頭出ている。キアラ(Chiara)も人名だが、歌姫ではなく聖人。「アッシジのキアラ」としてカトリックで尊崇される。イタリアの守護聖人である聖フランシスコに帰依した女性で、女子修道会「聖クララ会」を創立。イタリア人名キアラは英語ではClare(クララ)となる。聖キアラは「目の守護聖人」のほか、出られなかったミサを離れた部屋で見聞きしたという逸話から「テレビ、電話」も守護する。テレワーク時代にふさわしい旬の聖人。

 

サトノインプレッサ

 無きず3連勝で毎日杯を制したサトノインプレッサ(牡3=矢作)がNHKマイルCに出走。この馬名はサンチャリオットS3連覇、マイルCSでも3、4、3着と健闘した母サプレザと音韻を踏んでの命名だろう。なおサプレザの名は父サームと母ソルプレーザを組み合わせたもの。

 Impresaはイタリア語で「計画、事業」。ほかに「功績、殊勲」の意味もあって、そこから「紋章に書かれるモットー」の意味が派生。英語には「盾の紋章」の意味で流入し、のちに紋章に書かれているモットー、つまり「名言、金言」そのものを示すようになったようだ。例えばスコットランド国章のインプレッサはNEMO ME INPUNE LACCESSIT(私を苦しめる者にすべからく罰を)。

 

シルヴァンシャー

 春の天皇賞は帝とか王に関連する馬名に縁起がいい。皇帝シンボリルドルフ。王のつく勝ち馬は多くミハルオータカオー、キタノオー、トサオー、タケシバオーテイエムオペラオー。69年タケシバから00年テイエムまで31年あるが気にしてはいけない。さらにクシロキングもいるぞ。では今年の王は? エタリオウ…と思わせて彼は「得たり、唯う(よし、やったぞ)」であって王ではない。鉄砲で盾に挑むシルヴァンシャーの「シャー」こそペルシャ語で「王、皇帝、支配者」だ。この馬名は母アゼリ(=アゼルバイジャン人)からの連想で、同国の首都バクーにある世界遺産シルヴァン・シャー宮殿が由来。

 

ショウナンバビアナ

 福島牝馬Sは別定重賞。限定2勝クラスを辛勝したばかりのショウナンバビアナ(牝4=上原)には家賃が高いが、ディープインパクト産駒で祖母BCスプリント勝ちデザートストーマーの血統馬。自己条件(エールS)でなく重賞でも面白い。

 定期的に書いているが、冠名ショウナンに付くのは必ずア行。バビアナは花の名前。和名は穂咲菖蒲(ホザキアヤメ)で、その名の通り穂状花序で複数の花が咲く。バビアナの語源は古いオランダ語のbabiaenでオナガザル(ヒヒ)のこと。花の茎がヒヒに食べられるからで、捕食者の名がつく被食者。穴にはまってばかりの穴党みたいだが、ここではバビアナがバビンッと激走してのアナ馬券を期待。

 

ダーリントンホール

 共同通信杯の勝ち馬ダーリントンホール(牡3=木村)が、皐月賞で気になる。この馬名は文学に由来する。ノーベル文学賞作家のサー・カズオ・イシグロに「日の名残り」という英国貴族邸の執事が語り部となる89年の作品がある。93年にはアンソニー・ホプキンス主演で映画化もされた。執事の働く邸宅が、執事の前の主人がダーリントン卿であったことから「ダーリントンホール」。小説では執事の元に手紙が届いて、その差出人は以前、邸宅で共に働いていたベン夫人。昔、互いに意識しながら結ばれなかった彼女は旧姓がケントン。未婚の時はミスケントンで、馬のダーリントンホールは母の名がミスケントンなのだ。