香港国際競走

 香港国際競走における馬名と香港名を比べてみよう。香港カップのタイムワープは馬克羅斯。馬克はマルク、羅斯はローズの中国語での当て字。タイムワープ→マルクローズにワープ。マイルのモズアスコットは魔族雅谷。魔族の中国語での発音が「モズ」なだけで、他意はないと思う。Ascot(英国の地名)は「雅士谷」。ヴィブロスは強擊。文字通りハードヒッティングの意味で、ΒΝΒΛΟΣ(ギリシャの地名)とは無関係。スプリントのミスタースタニングは紅衣醒神。勝負服が赤地に桃玉霰で、紅衣は冠名では。Stunningは「気絶させる(ほど凄い)」。醒神は口語で「はっきり目が覚めていない」。

 

パヴェル

 パヴェル(セン4=米国モラ)は前走のレース後、厩舎がオニール→モラに変更。モラ師はケンタッキーダービーのデュアルウィナー(アイルハヴアナザーナイキスト)であるオニール師の右腕を務めており、オニール師はフリートストリートダンサーでJCダートを勝っている。日本のダートと米国のダートの違いなど承知の上での遠征だ。怖さはある。

 Павелは人名。キリル文字で分かる通りロシア系の男性名で英語名だとPaul(ポール)。なので実はパヴェルの名をいただく著名人はかなり多い。ロマノフ朝ロシア帝国がらみで皇帝パヴェル1世、ロシア帝国陸軍の騎兵大将パヴェル・レンネンカンプ。チェコのサッカー選手であるパヴェル・ネドベド。語源的にはラテン語paulus(小さい)だが、皇帝やら大将やらチェコの英雄やらいるし、この馬自身も3走前にダート9FでGⅠ勝ちがありなかなかの大物。その勝ち時計は1分49秒21だ。

 

 

サンダリングブルー

 英国からジャパンCに遠征してきたサンダリングブルー(セン5=ムニュイジエ)は「クラス2ハンデ戦」でモマれて力をつけた叩き上げセン馬。日本の馬場に合うのか、通用するのか。興味深い。

 Thundering Blueは直訳すれば「雷鳴の青」。雷は青く光るとも言えるが、サンダーは「雷鳴」、あくまで音であって雷光(ライトニング)ではない。オーナーの本業が海運保険業で、勝負服が海をイメージする「青たすき」。そのあたりの連想かも。なおブルーだが芦毛。調教師のムニュイジエ師はフランス生まれ。ジョン・ダンロップ厩舎でアシスタントをへて英国で14年に開業した。Menuisierは「大工」。愛馬をどう築き上げるか、お手並み拝見だ。

 

ミッキーグローリー

 古馬になって本格化したディープインパクト産駒ミッキーグローリー(牡5=国枝)がマイルCS制覇を狙う。

 ミッキーは冠名。グローリーは「栄光、名誉、名声」。gloryの語源はラテン語gloriaで、これはギリシャ語ΚΛΕΟΣ(クレオス)と同根。クレオスは「名声」だけでなく、「報告、いい知らせ」、さらに「うわさ、流言」の意味もある多義語。もとがΚΛΥΩ(クルオー、聞く)の派生ゆえ。聞いた内容は名声にも、流言にもなるわけだ。穴人気必至のグローリーだが、流言の徒で終わるか、本物の名声を得られるか。正念場だ。なお母メリッサ(ΜΕΛΙΣΣΑ)はギリシャ語で「みつばち、はちみつ」の意味。

 

レッドジェノヴァ

 じわじわと力をつけてきたレッドジェノヴァ(牝4=小島)がエリザベス女王杯に出走。

 レッドは冠名。ジェノヴァはイタリア北西部の都市。祖母マンハッタンフィズ(カクテル名)からの連想で母はコロンバスサークル。母名はニューヨーク市マンハッタンの円形広場・ロータリーのこと。広場の中心に航海家コロンブスの像がある。コロンブスジェノヴァ共和国の出身とされることから、娘がジェノヴァ命名されたもの。Genovaの語源はラテン語Genuaだが、さかのぼるとケルト語の「口」にあたる語が河口の街の名にうかがえるという。実は語源的にジェノヴァとGeneva(スイスのジュネーヴ)は近親なのだ。

 

センチュリオン

 紀元前6世紀の王政ローマで、ローマ王セルウィウス・トゥッリウスが財産の多寡によってローマ人の階級を分けた。およそ100人の集団が193。この集団の名をcenturia(ケントゥリア)という。語源はラテン語のcentum(100)。百分率(パーセント)のセントとか、世紀(センチュリー)の語源がこれだ。紀元前1世紀ごろにはケントゥリアは軍事ユニットの中心となり、一つのケントゥリアの指揮官はCenturionus(ケントゥリオヌス)と呼ばれる。これがJBCクラシックに出走するセンチュリオン(牡6=田村)の語源。「百人隊長」あるいは「百卒長」の訳で知られる。母ハンドレッドスコア(百点)からの連想。

 

サングレーザー

 サングレーザーが待望のGⅠ奪取なるか。札幌記念を制し、満を持しての天皇賞(秋)出走だ。

 SungrazerはSun(太陽)+grazer(かすめて通る者)。グレーザーには「草食動物」の意味もある。つまりサングレーザーは「太陽のような草食動物」として、既に頂点を極めるべき資質を有す馬名だ。一般的にはサングレーザー=Sungrazing comet=「太陽の近くをかすめて通る彗星」。ところがサングレーザー(彗星)は、しばしば太陽に近づきすぎて蒸発するというから、天頂を目指し身を焼かれるイカロスに擬せられぬよう、サングレーザー(馬)はその翼――末脚を有用に生かさねばならない。