ウインムート

 オープン2連勝と充実一途のウインムート(牡5=加用)がプロキオンSに出走する。
 Mutはドイツ語で「勇気」。古高ドイツ語のmout、さらにゲルマン祖語までさかのぼり、同根から派生した単語に英語のmoodがある。ゲルマン祖語の語源には「心、勇気」の意味があり、ドイツ語Mutは「勇気」を受け継ぎ、英語moodは「心的状態、気分、気持ち」の意味となった。母コスモヴァレンチのValenti(イタリア語「才能・力量のある」)はほぼ同形のポルトガル語valenteだと「勇敢な」の意味なので、その連想。なおエイシンヴァラー(牡7=新子雅)のValor(武勇)はvalentiと同語源。勇気丼が狙い目だ。

カツゲキキトキト

 大井の帝王賞名古屋競馬からカツゲキキトキト(牡5=錦見勇)が出走。東海一の弓取りとして君臨。交流重賞でも【0135】。2着は17年白山大賞典インカンテーションに続いたものだ。強敵相手の帝王賞でも奮戦を期待したい。
 カツゲキは冠名。「きときと」は富山弁で「新鮮なさま、いきいきして元気のいいさま」。たとえば氷見の寒ブリに「こんブリ、きときとや(このブリは新鮮だ)」のように使う。「きときとの人」は元気いっぱいの人。語源はおそらく「屹と屹と」。屹(きつ)は「高くそびえ立つ」から「ゆるみなくキリッとしている」の意味。富山空港には「富山きときと空港」の愛称がある。

ワーザー

 香港の実力馬ワーザー(セン7=Jムーア)が宝塚記念に出走。同レースへの外国馬の出走は97年セトステイヤー以来、21年ぶり。
 この馬、当初「ウェルテル」と表記されていた。Wertherはドイツ語でウェルテル、英語読みだとワーザーになるが、ニュージーランド産で香港の馬なら英語だろう…となったと思われる。出典は間違いなくゲーテの「若きウェルテルの悩み」――"The Sorrows of Young Werther"だ。「いい日が少なくって悪い日が多いとこぼすが、ぼくが思うにそれはたいてい間違っている」。馬券を買う時の心得ではなく、ヤング・ワーザーの独白。なお香港名は「明月千里」でウェルテルとは無関係。

ルヴァンスレーヴ

 風立ちぬ、いざ生きめやも――。人口に膾炙したこの一節は、堀辰雄の「風立ちぬ」序曲に出てくる。元は小説の冒頭に引用したフランスの詩人ポール・ヴァレリーの詩「海辺の墓地」にある"Le vent se leve, il faut tenter de vivre."を堀が訳したもの。そう、ユニコーンSに出走するルヴァンスレーヴ(牡3=萩原)の名は、ヴァレリーの詩から取られたものであり、つまり訳は「風立ちぬ」だ。宮崎駿の映画「風立ちぬ」(2013)で、菜穗子と二郎の間でこの一節のやりとりがあるので、そこにインスピレーションを得た命名かもしれない。堀の訳には誤訳論争があるがここでは立ち入らない。ルヴァンスレーヴ、それは心に残る一節。それで十分だ。

ダイワキャグニー

 エプソムのダービーにディープインパクト産駒サクソンウォリアーが出走(4着)。グンと日本になじみが出たエプソムと東京競馬場は姉妹提携している。提携記念のエプソムCに東京巧者ダイワキャグニー(牡4=菊沢)が出走。
 キャグニーは人名。最も著名なのはギャング映画スターのジェームズ・キャグニーだろう。主演作に『汚れた顔の天使』や『白熱』など。Cagneyはアイルランド系の名字。ゲール語ではO'Caigneで意味は「調停者の孫息子」。なのにジェームズ・キャグニーギャングスター。つまりキャグニーの印象は言論と暴力の二重奏だ。ダイワキャグニーも先行して良し、差して良し。

安田紀念賽香港名

アエロリット 太空隕石
ウインガニオン 勝者行
エスタンエクスプレス 西方快車
キャンベルジュニア 唱作人
サトノアレス 里見武神
サングレーザー 白日彗星
スターオブペルシャ 波斯蔥
スワーヴリチャード 文雅之士
ダッシンブブレイズ 疾飛猛火
タワーオブロンドン 倫敦塔
ヒーズインラブ 沐浴愛河
ブラックムーン 烏月
ペルシアンナイト 波斯劍客
ムーンクエイク 威震月宮
モズアスコット 魔族雅谷
リアルスティール 不撓真鋼
リスグラシュー 雍容白荷
レーヌミノル 實搏女王
レッドファルクス 彎刀赤駿
 今年の安田記念は香港からウエスタンエクスプレスを迎え、例年のごとく日港友好競走の色合いが濃い。出走馬の香港名を見ていこう。
 西方快車。GⅠ勝ちこそないが、ウエスタンエクスプレスは当地のトップ級マイラー。その名のごとく速そうだ。沐浴愛河。今回一番の意訳。ヒーズインラブだ。中国語の沐浴には「水を浴びる、風呂に入る」のほかに「受ける」の意味がある。愛河は「愛し合っている(こと)」。「愛情は河の流れのごとし」という経典「首楞厳経(しゅりょうごんきょう)」の一節。He's in love「彼は愛してる」から「相思相愛を受け入れる」。これはこれで良い。

ステイフーリッシュ

 05年、当時アップルコンピューターとピクサーアニメーションスタジオのCEOだったスティーブ・ジョブススタンフォード大学の卒業式でスピーチをした。生い立ちから成功と挫折、愛と死について語り、「他人の考え、ドグマにはまることなかれ。自らの心と直感に従え」と卒業生を励ました。スピーチの最後にジョブスはヒッピー雑誌「全地球カタログ」から"Stay hungry. Stay foolish."という言葉を引用する。ハングリーなままで、分別なく無謀なままで。ダービーの予想もそうだ。心と直感に従い、無謀であっても常識にとらわれず渇望するままに狙え。ステイフーリッシュ。