ヒュッゲ

 京成杯のヒュッゲ(牡3=友道)に注目。日本語の促音と濁音は音結合しないため、微妙に発音しづらいこの馬名はデンマーク語。「居心地の良さを重視したライフスタイル」をHyggeと呼ぶ。キャンドルをともしたり、おいしいものを用意してリラックスする、シンプルかつゆったりしたデンマーク人ライフ。数年前からイギリスで流行して各国に広がり、日本にも輸入されており、確かにエコフレンドリーな方々に受けそうなカルチャー。日本語で似た概念は「まったり」とあったが、そうかな? この馬の祖母がスタイルオブライフ(=生活様式)なので、そこからの連想だろう。なおスタイルオブライフは愛ダービー馬グレイスワローの母。良血。

 

コントレイル

 ホープフルSの有力候補コントレイル(牡2=矢作)は前走東スポ杯2歳Sで1800m分44秒5のレコードで圧勝。残像が残るような末脚だった。

 Contrailは「飛行機雲」の意味で、飛行機がない時代には当然なかった単語。飛行機周りの空気中の水分が排気や気圧差により凝縮して水滴になり、高所で低温なため氷となり、それが雲になる。航跡の後方に線上の白い雲ができる現象。水分の凝縮を伴うので、英語ではcondensation(凝縮)trail(跡)と呼ばれた。明らかに「飛行機雲」の方が分かりやすい。英語話者も長いと気づいたのか、短縮してContrailにしたのが1945年のことだ。

 

アエロリット

 天皇賞(秋)で逃げて3着に頑張ったアエロリット(牝5=菊沢)が有馬記念でラストラン。Aerolitheはフランス語。「隕石(いんせき)」のこと。語源はギリシャ語でΑΗΡ(空)+ΛΙΘΟΣ(石)。フランス語は隕石を「空の石」とみた。英語の隕石はMeteorite(メテオライト)で、ギリシャ語ΜΕΤΕΩΡΟΣ(天上の)から。隕石を「天空のもの」とみた。隕石の「隕」は「落ちる」の意味だから、隕石はつまり「落ちてくる石」。日本語はステータスよりダイナミクスを重視している。競馬では時に展開(ダイナミクス)が実績(ステータス)を覆す。アエロリットのラスト逃走、下馬評を覆し隕涙(=落涙)しきり…となるか。

 

ビアンフェ

 種牡馬キズナは父ディープインパクトの血を広げる優秀なインフルエンサーになりそうだ。朝日杯FSのビアンフェ(牡2=中竹)は全然キズナっぽくもディープっぽくもないタイプ。なのに走る。キズナはビアンフェの母であるサクラバクシンオー産駒ルシュクル(馬名はフランス語「砂糖」)の質のいいスピードを引き出した。母に倣ってフランス語の馬名Bien faitは、英語だとWell-doneとほぼ同義で、「お見事」とか「上出来」の意味。なおBienfaitと一語にすると「恩恵、効果」の意味になる。父の影響力、母のスピードの恩恵に浴し、GⅠの大舞台で「ビアンフェ」と叫べるか。

 

グローリーヴェイズ

 ついにグローリーヴェイズが香港ヴァーズに出走する。ヴェイズとヴァーズは同じ単語(Vase)なのだ。一般的にヴェイズが米国、ヴァーズが英国の発音という理解で問題ない。Vaseには「壺(ツボ)」と「花瓶」の意味がある。グローリーヴェイズは母がメジロ「ツボ」ネなので「栄光の壺」だが、香港名では「耀滿瓶」と瓶にされた。ただレース名(香港瓶)に寄せてきたあたり、注目度は高いと言えよう(実は中国語の「壺」は「やかん」の意味が一般的なのでそのせいかと思うが)。耀(ひかり)で瓶(ヴァーズ)を滿(満)たしてみせる!強敵は昨年勝ち馬・時時精綵(エグザルタント)だ。

 

クリソベリル

 デビュー5連勝のクリソベリルがチャンピオンズCで文字通り古馬のチャンピオン級に挑む。一気に頂点を極めるか。
 この馬が出る牝系は近年の重要牝系。キャサリーンパーから広がり、多くに鉱石・貴石の名がつく。兄クリソライト、姉マリアライト、近親のダンビュライト、アロンダイト、ブラックスピネル…など。Chrysoberylは「金緑石」。Chryso-は語源がギリシャ語で「金の」という接頭辞、berylは「緑柱石」のことでギリシャ語ΒΗΡΥΛΛΟΣから、サンスクリットまでさかのぼり、南インドの地名ベルールが語源のようだ。当地では鉱石が多く取れたのだろうか。クリソベリルはモース硬度8.5でかなりカタい。

 

ルックトゥワイス

 ジャパンCに出走するルックトゥワイス(牡6=藤原英)はG1初挑戦。鞍上は世界のデットーリだ。

 Look Twiceは直訳すれば「二度見する」。ふと見ていったん視線を切ってあっと思ってもう一度見る――これを「二度見」と表現するようになったのはわりと最近。それはともかく、ちょっと年かさの人なら90年代なかばに活躍したスウェーデンのユーロダンスグループLook Twiceをご存じかもしれない。Funk You UpとかGet Upとか、2年ほど前Mr.Dance & Mr. Groveがリメイクされていたりする。この馬名がそれから名づけられたかは定かではないが…。同グループに曲名That's the way(その調子!)ってのがある。