レッドベルオーブ

 中京芝マイルの未勝利1分33秒1、阪神のデイリー杯2歳S1分32秒4。連続レコードVの離れ業を演じたレッドベルオーブ(牡2=藤原英)が朝日杯FSに出走。未来は有望だ。

 母レッドファンタジアの子どもは初子の長女レッドベルローズから、全て冠名レッド+ベル(フランス語「美しい」)でそろっている。次女レッドベルディエス、長男レッドベルジュール、そして第四子の次男レッドベルオーブ。上から順にフランス語でバラ、女神、1日と来てAubeは「夜明け」。その語源はラテン語albus(=白)で、馬名に赤(レッド)と白の両方を含み、勝負服「赤地、白星散、袖白一本輪」に通じている。

 

ホットキングプローン

 香港スプリントで注目は前哨戦のGⅡを制したホットキングプローン(騸6=サイズ)。香港表記「旺蝦王」。旺は「盛んな様子」。懐かしき安田記念フェアリーキングプローン(靚蝦王)と同馬主。冠名は馬主の好物(エビ)から。香港マイルは18~19年に無双した美麗傳承(ビューティージェネレーション、傳承=伝承)、そのビューティーに2連勝中で14戦13勝の金鎗六十(ゴールデンシックスティ、鎗は武器のヤリ)、前年覇者の頌讚火星(アドマイヤマーズ、頌讚=称賛)と、馬名と香港表記が一致しやすい各馬の楽しみな一戦。香港Cに出走するアイルランドのマジカルは香港表記「變魔術」。變は「変」の繁体字。「魔術」だけでいいのでは…。

 

アナザートゥルース

 ”There is always only one truth.”
 見た目は子供、頭脳は大人な名探偵の決めぜりふ「真実はいつもひとつ」の英語。これは事件に関してのことで、例えば競馬予想には各人の真実がある。チャンピオンズC出走のアナザートゥルース(セン6=高木)は父アイルハヴアナザー(おかわりください)と母キョウエイトルースの名前を組み合わせた馬名。兄サウンドトゥルー(説得力がある)にも通じる「もう一つの真実」。競馬予想における各人の真実は、結果という事実にだいたい打ちのめされるが、僕の真実はアナザートゥルース。
 ”The true answer is nothing but one.”
 真実はいくつあっても正答は一つ。

 

インディチャンプ

 マイルCS出走の母ウィルパワー兄妹の馬名が好きだ。妹アウィルアウェイは母名+父ジャスタウェイの名で「意志あれば道あり」という金言。兄インディチャンプは文字通り「インディカー・シリーズのチャンピオン」で、14年の年間王者が母と同じ名のウィル・パワーというドライバーだから。ウィル・パワーはインディ500でも18年に優勝(17、20年の優勝が佐藤琢磨)。Powerは普通「力、能力」の意味だが、名字に用いられた場合の語源は古フランス語で、北フランス・ピカルディ地方の町「Poisの出身者」。Poisは「魚」のことで、町が水量の多い川に恵まれたため。魚沼市新潟県)みたいなものか。

 

センテリュオ

 牝馬だてらにオールカマーを制したセンテリュオ(牝5=高野)がエリザベス女王杯に出走。昨年4着からの躍進を期している。

 Centelleoはスペイン語で「きらめき、(星の)またたき、火花」で母アドマイヤ「キラメキ」の名をスペイン語訳したもの。語源はラテン語scintilla(火花)で、同語源の英語はscintilla(シンチラ=火花)と原型をとどめて伝わるが、おそらくカタルーニャ語経由のスペイン語では語頭のSが消失した。科学(ラテン語=Scientia、英語=Science、スペイン語=Ciencias)にも同様の現象が見られる。スペイン語馬名はシンプルに狙え…ってこと、か?

 

サルビア

 ファンタジーSに新馬、りんどう賞と連勝中のサルビア(牝2=鈴木孝)が出走する。Salviaは花の名前でシソ科アキギリ属、初夏から晩秋まで長く咲き、緋色(ひいろ)の花が群れ咲くサルビア・スプレンデンスは街路花にも使われる。ピンク、紫、白、青、その混合など園芸品種では色の種類も多い。同じアキギリ属の近縁にハーブのセージ(薬用サルビア)もあり、サルビア、セージとも語源はラテン語Salvusで「健康な」の意味。イングランドのおとぎ話に「サルビア(セージ)は、かかあ天下でよく育つ」と言うのがあるそうで、馬のサルビアが牡馬と対決の折には思い出してほしい。

 

ダノンプレミアム

 昨年の天皇賞(秋)では勝ち馬アーモンドアイから3馬身差2着。ダノンプレミアム(牡5=中内田)の逆襲はあるか。

 Premium(英語)は形容詞で「品質の高い、ハイクオリティーの」、名詞だと「賞品、褒章(金)」の意味。語源的にはラテン語praemiumで、語素は「前に+買う」となるが、「褒美」とか「戦利品」の意味で使われた。「プレミアムなダノンプレミアムが勝ってプレミアムを得る」はつまり「資質の高いダノンプレミアムが勝って賞金を得る」。JRA史上初の芝GⅠ8勝目を懸けたアーモンドアイのいる今回の天皇賞は"at a premium(=プレミアム付き、額面以上の価値がある)。今年こそ、女王よ覚悟。