サルビア

 ファンタジーSに新馬、りんどう賞と連勝中のサルビア(牝2=鈴木孝)が出走する。Salviaは花の名前でシソ科アキギリ属、初夏から晩秋まで長く咲き、緋色(ひいろ)の花が群れ咲くサルビア・スプレンデンスは街路花にも使われる。ピンク、紫、白、青、その混合など園芸品種では色の種類も多い。同じアキギリ属の近縁にハーブのセージ(薬用サルビア)もあり、サルビア、セージとも語源はラテン語Salvusで「健康な」の意味。イングランドのおとぎ話に「サルビア(セージ)は、かかあ天下でよく育つ」と言うのがあるそうで、馬のサルビアが牡馬と対決の折には思い出してほしい。

 

ダノンプレミアム

 昨年の天皇賞(秋)では勝ち馬アーモンドアイから3馬身差2着。ダノンプレミアム(牡5=中内田)の逆襲はあるか。

 Premium(英語)は形容詞で「品質の高い、ハイクオリティーの」、名詞だと「賞品、褒章(金)」の意味。語源的にはラテン語praemiumで、語素は「前に+買う」となるが、「褒美」とか「戦利品」の意味で使われた。「プレミアムなダノンプレミアムが勝ってプレミアムを得る」はつまり「資質の高いダノンプレミアムが勝って賞金を得る」。JRA史上初の芝GⅠ8勝目を懸けたアーモンドアイのいる今回の天皇賞は"at a premium(=プレミアム付き、額面以上の価値がある)。今年こそ、女王よ覚悟。

 

ヴェルトライゼンデ

 菊花賞には質実剛健なドイツが似合う。01年菊花賞マンハッタンカフェは5代母シュヴァルツゴルトで伝統のドイツS牝系。昨年のワールドプレミアは5代母マリアポリスが英国からドイツに渡った新興ながら、母マンデラは独オークス3着で配合もドイツ感満載。今年の菊でドイツ牝系はヴェルトライゼンデ(牡3=池江)。先述ワールドプレミアの半弟だ。牝系に沿ってか馬名はドイツ語。Weltreisendeは「世界中を旅する人、世界を遊歴する人々」。Welt(世界)は兄ワールドプレミアから、Reisende(旅人)は父ドリームジャーニーからだろう。改修前、最後の淀長距離トラベルにふさわしい馬名。

 

クラヴェル

 クラヴェル(牝3=安田翔)は秋華賞で「6分の4」の抽選対象となっている。曽祖母がアルゼンチンの名牝ポトリザリスで、この牝系の馬名はアルゼンチン由来が多い。祖母がディアデラノビア恋人の日)、母がディアドラマドレ(母の日)、そしてClavelはスペイン語で「カーネーション」。母の日に贈る花と言えばこれだ。語源的にはラテン語clavus(くぎ、形から転じてスパイスのクローブ)で、クローブカーネーションの香りが似ているため。同語源のラテン語にclavis(鍵)があるが、クラヴェルこそ秋華賞のキーホース。なおアルゼンチンの「母の日」は10月第3日曜、今年は秋華賞当日だ。

 

バラックパリンカ

 凱旋門賞アイルランド生産フランス調教ドイツ血統のインスウープが2着に好走。同距離の京都大賞典に父アイルランド産、自身は日本産日本調教で実はドイツ色が強い配合(ノヴェリスト×シュヴァルツゴルト牝系)のバラックパリンカ(牡4=平田)が出走。

 Barack Palinkaはハンガリー語。Barackのつづりはオバマ米大統領の名前と一緒だが偶然で、そちらはアラビア語「祝福」から。バラックパリンカのBarackはアプリコットと桃の総称、Palinkaは果物を原料とする蒸留酒。母名アプリコットフィズアプリコット酒を使ったカクテル)からの連想で「ハンガリー産のアプリコットブランデー」のこと。

 

アウィルアウェイ

 新首相がスプリンターズSのサイン? 9月16日、第99代内閣総理大臣に就任した菅義偉首相の座右の銘は、96年の衆議院議員初当選時から「意志あれば道あり」。この格言はWhere There's A Will, There's A Way.の意訳。この中にアウィルアウェイ(父ジャスタウェイ、母ウィルパワー)の名を見ることができる! フレーズ自体はリンカーンの演説で人口に膾炙したが、オリジナルは17世紀イングランドの詩人ジョージ・ハーバートが集めたことわざ集にさかのぼり、Help thyself, and God will help thee.(神は自ら助くる者を助く)の同工異曲だと思う。首相は「自助」も強調していた。

 

メイショウボサツ

 神戸新聞杯には無敗の2冠馬コントレイルが出走する。焦点はその相手で、ローズSがヒントだ。14番人気2着ムジカは父エピファネイア。同産駒は中京芝【9・7・3・24】で同2200m3戦2勝。試行数は少ないが、べらぼうに相性がいい。そう、エピファネイア産駒メイショウボサツ(牡3=西浦)だ。ボサツは菩薩。サンスクリットの बोधिसत्त्व(ボーディサットヴァ)を漢文に音写した菩提薩埵(ぼだいさった)の略。ボーディは「全知」であり「悟り」、サットヴァは「存在、実在」にして「生けるもの」。もとは悟りを開く前のシャカ本人、のちに悟りを求めて修行する人を言う。ローズSで悟った。中京芝はエピファネイア