サトノインプレッサ

 無きず3連勝で毎日杯を制したサトノインプレッサ(牡3=矢作)がNHKマイルCに出走。この馬名はサンチャリオットS3連覇、マイルCSでも3、4、3着と健闘した母サプレザと音韻を踏んでの命名だろう。なおサプレザの名は父サームと母ソルプレーザを組み合わせたもの。

 Impresaはイタリア語で「計画、事業」。ほかに「功績、殊勲」の意味もあって、そこから「紋章に書かれるモットー」の意味が派生。英語には「盾の紋章」の意味で流入し、のちに紋章に書かれているモットー、つまり「名言、金言」そのものを示すようになったようだ。例えばスコットランド国章のインプレッサはNEMO ME INPUNE LACCESSIT(私を苦しめる者にすべからく罰を)。

 

シルヴァンシャー

 春の天皇賞は帝とか王に関連する馬名に縁起がいい。皇帝シンボリルドルフ。王のつく勝ち馬は多くミハルオータカオー、キタノオー、トサオー、タケシバオーテイエムオペラオー。69年タケシバから00年テイエムまで31年あるが気にしてはいけない。さらにクシロキングもいるぞ。では今年の王は? エタリオウ…と思わせて彼は「得たり、唯う(よし、やったぞ)」であって王ではない。鉄砲で盾に挑むシルヴァンシャーの「シャー」こそペルシャ語で「王、皇帝、支配者」だ。この馬名は母アゼリ(=アゼルバイジャン人)からの連想で、同国の首都バクーにある世界遺産シルヴァン・シャー宮殿が由来。

 

ショウナンバビアナ

 福島牝馬Sは別定重賞。限定2勝クラスを辛勝したばかりのショウナンバビアナ(牝4=上原)には家賃が高いが、ディープインパクト産駒で祖母BCスプリント勝ちデザートストーマーの血統馬。自己条件(エールS)でなく重賞でも面白い。

 定期的に書いているが、冠名ショウナンに付くのは必ずア行。バビアナは花の名前。和名は穂咲菖蒲(ホザキアヤメ)で、その名の通り穂状花序で複数の花が咲く。バビアナの語源は古いオランダ語のbabiaenでオナガザル(ヒヒ)のこと。花の茎がヒヒに食べられるからで、捕食者の名がつく被食者。穴にはまってばかりの穴党みたいだが、ここではバビアナがバビンッと激走してのアナ馬券を期待。

 

ダーリントンホール

 共同通信杯の勝ち馬ダーリントンホール(牡3=木村)が、皐月賞で気になる。この馬名は文学に由来する。ノーベル文学賞作家のサー・カズオ・イシグロに「日の名残り」という英国貴族邸の執事が語り部となる89年の作品がある。93年にはアンソニー・ホプキンス主演で映画化もされた。執事の働く邸宅が、執事の前の主人がダーリントン卿であったことから「ダーリントンホール」。小説では執事の元に手紙が届いて、その差出人は以前、邸宅で共に働いていたベン夫人。昔、互いに意識しながら結ばれなかった彼女は旧姓がケントン。未婚の時はミスケントンで、馬のダーリントンホールは母の名がミスケントンなのだ。

 

リアアメリア

 阪神JF6着以来、ぶっつけでリアアメリア(牝3=中内田)が桜花賞に出走する。母がBCジュベナイルフィリーズ勝ちリアアントニアで、母名からリアをもらって命名。Ameliaは人気のある女性名で、18世紀にハノーヴァー朝が英国で成立した時、ジョージ2世、ジョージ3世とも娘にアメリアがいてこの名前が人気を博した。さらに20世紀の終わり、また近年も英国の女児の命名上位で、愛とか友に関連する語の接頭辞によく使われるAm―の言いだしが持つ魅力によるものと考えられる。なおアメリアの語源自体はゲルマン語経由「勤勉な」で、友愛とは関係ない。見た目ふわふわ、中身が質実剛健という感じの名だ。

 

ラッキーライラック

 大阪杯にラッキーライラック(牝5=松永幹)が出走する。母ライラックアンドレースの連想からLucky Lilac(幸運のライラック)と命名された。ライラックは和名「紫丁香花」で、薄紫あるいは白のかれんな花をつけ、甘く優しい香りを放つ。小さな花が集まって複総状花序といわれる花の咲き方をする。一つの花の花びらは通常4枚だが、5枚のものも見られる。ロシアに5枚の花びらのライラックを見つけたら幸せになる…という言い伝えがあるそうで、5枚の花びらのそれをラッキーライラックと呼ぶとか。ライラックは初恋を象徴しており、ラッキーライラックを見つけてのみ込むと恋がかなうなんて話もある。

 

アイラブテーラー

 戦歴わずか7戦。1度も連を外したことがない天才アイラブテーラー高松宮記念に挑む。

 Tailorは「仕立職人」。着る人に合わせて型を取り、スーツを仕立てる職人をそう呼ぶ。馬主・中西浩一氏は京都の老舗オーダースーツ専門店「オンリー」の創業者で、自身の職業を冠名へと仕立てた。語源的にはラテン語taliare(=切る)にさかのぼる。同語源の名前がTaylorで、著名なのは歌手のテイラー・スウィフト。彼女の名前は「仕立職人」で語源的に「切る人」、姓(スウィフト)は「素早い」または「アマツバメ(最速の鳥類)」の意味。アイラブテーラーも切れ味があって速い競馬界のスウィフティーだ。