トゥラヴェスーラ

 スプリント界に新星誕生なるか。トゥラヴェスーラ(牡3=高橋康)がキーンランドCで古馬に挑戦する。
 Travesuraはスペイン語で「いたずら」。語源はラテン語transverto(横切る、向きを変える)で、この動詞からは多くの派生語がある。たとえばイタリア語のtrasversale(横断線、横道)、英語のtransverse(横軸)とかtransverter(周波数変換装置)などで、おおむね語源の意味から大きくは外れないが、なぜかスペイン語に至ると「横切る」が「いたずら」になった。謎。チリのフォルクローレグループであるインティ・イリマニ・イストリコに「Travesura」というインストルメンタルの曲がある。

マイスタイル

 風を切るこの走りこそマイスタイル。「逃げ」の戦法を確立させて連勝中のマイスタイル(牡4=昆)が札幌記念に挑む。
 My Styleは「私の流儀」、「私の生き方」。Styleの語源はラテン語stilusで、意味は「尖筆」。ローマ時代には蝋版に字を書くためとがった鉄筆を用いた。それがスティルスだ。現在でもタッチパネル式のデバイスを操作するペン状の器具をstylus(スタイラス)という。尖筆から「ペン、文具」に、さらに「表現様式」、続いて「生き方」あるいは「ファッションなどの表現方法」に意味が広がった。文筆に深く関わる用語だけに、マイスタイルでいかに説得するかがポイントだ。

エイシンティンクル

 2連勝の勢いを駆ってエイシンティンクル(牝5=坂口正)が関屋記念で重賞初制覇を狙う。
 兄がエイシンヒカリなので、「光」→「輝く」→「キラキラ」→Twinkle(きらめき、キラキラした輝き)と連想がつながる。Twinkleといえば"Twinkle, Twinkle, Little Star"(きらきら星)。この童謡が日本に紹介された時「ティンクル・ティンクル・リットル・スター」とカタカナ書きされた。だからつづりの正則的には「トゥンクル」だろうが、ティンクルもまた正しいのだ。語源的には中高ドイツ語にさかのぼれ、元は擬音語との分析もある。日本語の「つるつる(表面がなめらかでツヤのあるさま)」という擬態語と似た発想では?

アルクトス

 馬なのに豹(ヒョウ=Leopard)とはこれいかに…なレパードSだが、ここに熊が出走する。前走で「猪」苗代特別を勝ったアルクトス(牡3=栗田徹)だ。
 ΑΡΚΤΟΣはギリシャ語で「熊」。ギリシャ神話に、ゼウスに懸想されたせいで、熊にされてしまった乙女カリストの不幸な話がある。ゼウスはマッチポンプもいいところだが、熊となったカリストを空の星の仲間に加えたため、ΑΡΚΤΟΣには星座の「おおぐま座」の意味もある。おおぐま座の腰から尻尾にかけてが、かの「北斗七星」。北斗七星のひしゃくの先、おおぐま座α星には「貪狼」の異名もあって、馬・豹・熊・猪・狼と今回は動物大集合だ。

モルフェオルフェ

 500万を勝ったばかりだが、モルフェオルフェ(牝3=大江原)がアイビスSDに登録。
 モルフェは冠名で、ギリシャ語μορφη (形)のことか。オルフェは父名オルフェーヴルの一部。なおOrfevreはOr(金)+fevre(ラテン語faber=「職人」からの変化)なので「オルフェ」は意味上は変。またこの馬は馬名登録で「モルフェーヴル」にしようとしたものの、無念にも通過しなかったとか。あえてオルフェに意味を持たせるならギリシャ神話の竪琴の名人オルフェウス。フランス語でオルフェという。ただ、つづりはOrpheeなのでモルフェオルフェ(Morphe Orfe)と違うが…。

フランス関連馬名

 サッカーW杯ロシア大会はフランスが優勝。安易だが中京記念でフランス関連の馬の好走を期待。
 昨年勝ち馬ウインガニオンはGagnantがフランス語で「勝者」。ロワアブソリュー(Roi Absolu)の馬名もフランス語で「絶対的な王」。絶対王政におけるフランス王を意味することもあり、具体的にはアンリ4世やルイ14世。馬のロワアブソリューは父ゼンノロブロイ(Rob Royはスコットランドの義賊の名)なのがシャレがきいている。マイネルアウラートは母がマイネシャンゼリゼ。フランス優勝でパリのシャンゼリゼ通りは歓喜に沸いた。ワントゥワンは祖母バルドウィナがフランス産でフランス重賞勝ち馬だ。

マイネルハニー

 混戦模様の函館記念マイネルハニー(牡5=栗田博)にもチャンスはあるはずだ。
 古今に「ハニー」のつく馬名は珍しくないが、圧倒的に牝馬が多い。マイネルハニーも母ブライアンハニー、祖母ハスキーハニーと母方の名を受け継いだもの。Honeyの第一義は「はちみつ」なので、フェミニンなイメージがあるゆえだろう。ただHoneyには「恋人」あるいはTerms of endearment(恋人、愛する人への呼称)として「あなた、君」の意味もあるので、牡馬に命名しても不思議ではない。語源は定かではないが、印欧祖語の「黄色、黄金色」からの派生という説もあるので、ハニー、黄金をもたらしてくれ。