ベストアクター

 昨年の阪急杯、脇に置かれた配役(6番人気)ながら、鮮やかな末脚で主役に躍り出たベストアクター(セン7=鹿戸)が1年ぶりの再演。臨戦過程から今年も本番前の主役は他に譲りそうだが、フィニッシュラインのスポットライトは譲らない。「最高の俳優」という馬名は母ベストロケーション、祖母ダイナアクトレスからの連想。ロケーションには「野外撮影、撮影場所」の意味があり、父ディープインパクトは映画の題名でもある。阪神競馬場の最寄り駅である仁川駅阪急今津線で、この路線を舞台にした有川浩原作の映画が「阪急電車 片道15分の奇跡」。1年ぶり、1分20秒の奇跡の主役となる。

 

インティ、ヘリオス

 フェブラリーの語源はフェブルウス――ローマ神話の、オオカミから家畜を守る牧神ルペルクスの別名の一つ。ローマでは2月半ば、この神のもと清めと償いの祭りが催された。祭りの縁起は戦死者の慰霊で、その性格からフェブルウスは冥府の神プルートと同一視されていくが、その名を冠したレース(フェブラリーS)を席巻するのは冥界神ならぬ太陽神だ。インティはインカ帝国の太陽神であり、ケチュア語で太陽も意味する。一昨年、7連勝で冥界を照らした。3度目出走の今年、再現を狙う。一方、ヘリオスギリシャ神話の太陽神。こちらもギリシャ語の太陽そのものを示す。初G1で頂点に至るか。

 

ダンスディライト

 京都記念が重賞初挑戦となるダンスディライト(牡5=松永幹)は、一気に重賞ウイナーまで上り詰めるか。ダンスは母ダンスインザムードから。Delightは「歓喜」。喜びの中でもとりわけ度合いが強いもので、「大満足」とか「欣喜雀躍」みたいな訳を当てたい。16世紀までdeliteのつづりだったが、light(光)やfight(戦い)の影響でつづりが変わったらしい。母は桜花賞とヴィクトリアMを制した名牝だが、子どもはコンスタントに勝つものの重賞Vとは縁がなかった。ダンスディライトは母にとっての光。厳しい戦いを勝ち抜き重賞勝ちなら、母も歓喜で小躍りすることだろう。

 

ヴァンドギャルド

 先週東京芝は「ディープインパクト祭り」。日曜は芝5戦ともディープ産駒Vと極まった。東京新聞杯も14年以降7年連続でディープ産駒が連対中だ。同レース出走のディープ産駒で馬名的に注目はヴァンドギャルド。フランス語で直訳「守りのワイン」。「長く見守られる(長期熟成)ワイン」のこと。3歳2月、きさらぎ賞4着。熟成不足。4歳2月、東京新聞杯6着(0秒2差)。もう少しエイジングが必要だった。5歳の今年、3年連続で同開催同日出走。昨秋の富士Sでタイトル奪取。完熟で勝機だ。なお母スキア(Σκια)はギリシャ語「影」なので、シャドウディーヴァ(Shadowは影)との「影馬券」でどうだ。

 

ライトオンキュー

 ローマと長安の交易路をシルクロードとした時、軽く1万2000キロ以上あるが、1200mのレース名なのはこれいかに。約1万分の1だから?奈良正倉院にはシルクロード経由で伝わった中東の宝物も所蔵されており、シルクロードSはゴドルフィンのライトオンキュー(牡6=昆)に注目。

 Right on Cueとは「ぴったりのタイミングで」。母グレイトタイミングからの連想だろう。Cueは16世紀から使われる劇中の合図で、一説にラテン語Quando(ここから、このタイミングから)の略”Q”のつづり化とか。パワースプリンターにとって京都から中京に替わったシルクロードSは、まさに買うタイミングでは。

 

ウインマリリン

 種牡馬スクリーンヒーローは自身の名が祖母ダイナアクトレス、母ランニングヒロインから銀幕・俳優の系譜を受け継ぐとともに、産駒がその枝葉を広げる。代表産駒のモーリス(映画の題名)、ゴールドアクターがそうだし、アメリカジョッキーズクラブカップの紅一点ウインマリリン(牝4=手塚)は映画俳優にして、20世紀大衆文化における最大の偶像マリリン・モンローの名をいただいている。マリリンはメアリの派生名で聖人「マグダラのマリア(Maria Magdalena)」を想起させる名のようだ。その語源は定かでないものの「恨みの海」「反逆」という物騒なものがある一方、エジプト経由なら「最愛の人」「愛」となるらしい。何にせよ主役級の名だ。

 

アドマイヤビルゴ

 生命保険会社が発表している名前ランキングで、男子名19年1位「蓮(れん)」、20年1位「蒼」。蒼は「そう」だけでなく「あおい」や「そら」と読む場合もある。いずれも女子名でもそれほど違和感はなく、ユニセックスな名前が上位だ。そんな流れの馬名が日経新春杯のアドマイヤビルゴ(牡4=友道)。Virgoは英語の「おとめ座」で、男女関係ないと言えばないが、元をたどればラテン語「未婚の女性」。Mariam, Matrm Virginem(Virgoの対格)=「処女聖母マリア」という宗教歌があるぐらいだ。ビルゴは430キロ台ときゃしゃで牝馬っぽさもある。新雪をバージンスノーと言ったりするし、「新春」と相性は良さげだ。