アウィルアウェイ

 新首相がスプリンターズSのサイン? 9月16日、第99代内閣総理大臣に就任した菅義偉首相の座右の銘は、96年の衆議院議員初当選時から「意志あれば道あり」。この格言はWhere There's A Will, There's A Way.の意訳。この中にアウィルアウェイ(父ジャスタウェイ、母ウィルパワー)の名を見ることができる! フレーズ自体はリンカーンの演説で人口に膾炙したが、オリジナルは17世紀イングランドの詩人ジョージ・ハーバートが集めたことわざ集にさかのぼり、Help thyself, and God will help thee.(神は自ら助くる者を助く)の同工異曲だと思う。首相は「自助」も強調していた。

 

メイショウボサツ

 神戸新聞杯には無敗の2冠馬コントレイルが出走する。焦点はその相手で、ローズSがヒントだ。14番人気2着ムジカは父エピファネイア。同産駒は中京芝【9・7・3・24】で同2200m3戦2勝。試行数は少ないが、べらぼうに相性がいい。そう、エピファネイア産駒メイショウボサツ(牡3=西浦)だ。ボサツは菩薩。サンスクリットの बोधिसत्त्व(ボーディサットヴァ)を漢文に音写した菩提薩埵(ぼだいさった)の略。ボーディは「全知」であり「悟り」、サットヴァは「存在、実在」にして「生けるもの」。もとは悟りを開く前のシャカ本人、のちに悟りを求めて修行する人を言う。ローズSで悟った。中京芝はエピファネイア

 

ガロアクリーク

 セントライト記念皐月賞3着ガロアクリーク(牡3=上原)が出走する。

Galore Creekはカナダのブリティッシュコロンビア州にある世界最大級の金銀銅鉱山。逐語だとガロアは「豊富な」、クリークは「小川」で、有望な金鉱山らしい地名。この馬は「金」ラッシュ。牝系が4代母ゴールドリバー(金の川)からリヴィエールドール(フランス語で「金の川」)~ゴールドバスト(金の胸像)~ゴールドレリック(金の形見)で、父「キン」シャサノキセキ。コンゴ民主共和国の首都キンシャサは中国語で「金夏沙」または「金沙薩」。母父「キン」グマンボという具合。ここ金メダルで菊(の英語Chrysanthemumの意味は「金の花」)に向かうか。

 

トロワゼトワル

 昨年の京成杯AHで1分30秒3の日本レコードVを決めたトロワゼトワル(牝5=安田隆)が今年も登場。馬名的には母母父アルファベットスープからの料理つながり。その子がエービーヌードル(A B Noodle)、その娘がセコンドピアット(イタリア語で「二皿目の料理」、肉料理や魚料理などのメインディッシュ)と来ており、その流れを継ぐTrois Etoilesは「三ツ星」。料理ガイドの最高評価だ。有名タイヤメーカーの出すガイドの三ツ星は「それを味わうために旅行する価値がある卓越した料理」を意味する。昨年は逃げて2F~4F目が10秒台の超速ラップ。負担重量は昨年52→今年55キロだが、今年もぜひ味わいたい。

 

ウイングリュック、ウインルーア

 札幌2歳Sは冠名ウインの牡・牝2頭に注目。ウイングリュック(牡=宮)は函館最終週に逃げ圧勝。Glückはドイツ語で「幸運」。英語Luckと同語源。母コスモフォーチュンのFortuneには「運勢」のほか「幸運」の意味もあるので、その連想だろう。ウインルーア(牝=青木)は札幌開幕週に勝ち上がり。ルーア(Ruaidh)はアイルランド語「赤い、赤毛の」。バイキング以前のノルウェーにルスラという名の「盾の乙女」と呼ばれる女戦士がいた。彼女はアイルランドの書物にも登場し、赤い乙女(Ingehean Ruadhe――あえてカタカナにするならイニョン・ルーア)と、あだ名がついた。その由来は返り血とも。

 

 

タイガーリリー

 新潟2歳Sでタイガーリリー(牝2=尾関)が大輪を咲かせるか。

 Tiger Lilyは夏に咲く大型のユリでオレンジ色の巻いた花弁に紫色の斑点が散るオニユリ(鬼百合)のこと。大きさと個性的かつ迫力のある花姿から「鬼」が付いたと思われる。なおタイガーリリーは字義通りなら「虎(トラ)百合」だが、斑点模様はどう考えても豹(ヒョウ)だろう。ところが「レパードリリー」はリリウム・パルダリナムという別の似たユリに命名されていたのだった。

 タイガーリリーの学名はLilium Lancifoliumで、「ヤリ形の葉を持つユリ」のこと。根(ユリ根)は食用。(ヤリなので)刺して(食用なので)おいしい馬券になる?

 

プリディカメント

 北九州記念にプリディカメント(牝5=吉村)が出走予定。

 Predicamentは英語で「困難な状況、苦境、窮地」の意味。デビューが3歳未勝利がなくなる直前の3歳9月。これに勝てず園田に転厩して連勝→JRA復帰。復帰後はダートで秒単位の2連敗→芝で一変V。なるほど苦境を克服してきた馬だが、どうしてそんな否定的な意味の名前をつけたのか不思議だった。

 あるとき、ひらめいた。父ハードスパン。つづりはHard Spunで「(糸を)固く撚った」の意味だが、このハードスパンをHard Span=「つらい時期」にわざと誤読したのだと思う。苦尽甘来、苦あれば楽あり。苦労馬の重賞Vなるか。